備忘録

『君へ捧ぐ手紙』  作:たばる


僕は君に恋をしていた。


それ以上でも、それ以下でもなく、
ただ、君の笑顔や泣き顔、君のすべてが自分のものになれば、と願っていた。



君が僕の心をつかんで離さないように
僕は君を抱きしめて離したくなかった。


だけど君は小鳥のように楽しく囀りながら、自由に飛び回った。


僕は君を愛するが故、君を失う恐怖に耐え抜くため、そしてそうならぬように、君を抱きしめようとした。


君は僕を愛するが故、僕を信じて、優しく手を離し、しかしいつでも胸に飛び込めるように、両手を優しく開いてそこに在った。


僕たちは、確かに、愛し合っていた。




だがしかし、愛しているというだけで傍に居れたあの頃はもう戻らない。


そうするには時が経ちすぎたのだった。


いま君はどこにいて
何をみているのだろうか。


いま君は誰を想っているのだろうか。




僕は君の瞳で世界を見てみたかった。



そう僕に想わせるほど、君が紡ぎ出す世界が僕にはまぶしく美しかった。


出来ることならその世界に住まいたかった。


もう一度それが可能ならば
そのときは
信じるという貴き行為に
僕は身を投じよう。



だがしかし、
そうするには時は経ちすぎた。




僕は君の、そして君の世界の美しさに惹かれ、そして同時に、それを恐れてしまったのだった。



僕のことを許してはくれまいか。





僕には君が美しすぎたのだった。